寿司図鑑 雑記31

島根県松江市『大鯛寿司』で考える 02

2009-01-01

話はやっと『大鯛寿司』に移る。
ネタケースの前の職人さんは二代目だという。
かなり若いように見受けられる。
一代目と女将さんがいて、若い二代目をほどよく助けており、居心地がいい。

店内は細長く、それをカウンターでしきってある。
ネタケースの前には漬け台。
そこに焼き物のまな皿がのっている。
織部釉、瀬戸焼(?)、備前の焼き締め。
豪華絢爛に思えるけど、ちょっと暗すぎる(夜ならいいのかも)照明とともに、わかりやすすぎるように思える。
例えばテレビ番組に『暴れん坊将軍』というのがあって葵の紋に白い柄の刀、金襴の陣羽織といったような。
すしを食べる場合、こんなわかりやすい器でいいのだろうか。
そしてこの器の最大の欠点は握りとのバランスが悪い上に、色彩的にも握りが映えないことだ。
この若い職人の作り出す華奢な握りから鑑みて、器は剛胆(婆娑羅)な感じではなく、例えば4代目須田せい華(漢字がない)のつくりだすような「なにげない重さ」とか、福森正武の「作為を排したもの」のほうが上。
若々しさを出していくなら倉敷の武内立爾さんに相談してもいいだろう。
さて、握りが出てくる。
最初は「白いか(ケンサキイカ)」、続いて「黄かな(アオハタ)」、ヒラメ昆布締め、「うちわはげ肝のせ(ウスバハギ)」、カンパチ、サワラあぶり、マアジ白板昆布のせ、のどくろあぶり(アカムツ)、「甘えび卵のせ(ホッコクアカエビ)」、「煮穴子(マアナゴ)」、「赤うに(アカウニ)」、出汁巻き卵。
計十二かん。
ずいぶん食べたように思えるだろうけど、すし飯が非常に小さいので、小腹がすいたという状況である。
これが「昼用」だと失格だけど、「夜昼同じ」なら及第点、松江は観光地だから「最初から小さく握ることにしている」というなら合格だろう。
また今回は特別にお願いしたわけで、敢えて夜の大きさなのかも知れない。
ただ『大鯛寿司』が観光地のすし屋を目差すなら、これでよく。
地元に愛されていきたいなら昼は大きく、夜は小さく握る方がいい。
すし飯は島根県にしては甘くなく、さっぱりしている。
ただ女性的な印象を受ける。
これは松江という土地柄でもある。
寿司職人としての若さから考えると、たまには東京のすし屋を回って勉強してもいいだろう。
ネタは素晴らしいとしかいいようがない。
総て地物で揃えていただけたようだし、仕事(調理・仕込み)が松江をそのまま表したのような「行儀のいいもの」である。

値段はこれで4000円。
松江には日本海の魚貝類がどっさり入荷してくる。
その良質であることは驚くべきもので、そこからまた寿司ネタとして厳選してあるようで、松江の魚貝類の価格からすると安い。
『大鯛寿司』で地元ネタを楽しむなら3000円くらいでも可能だろう。
現在のところ、「松江で江戸前ずし」ということでは『大鯛寿司』となりそうだ。

大鯛寿司 島根県松江市東奥谷町361-9