寿司図鑑 790貫目
寿司図鑑1~856貫目は旧コンテンツからの移行データの為、小さい写真の記事が多くあります。

どんちっちあじ/マアジ

どんちっちあじ / マアジ
どんちっちあじ/マアジ
握り

待ちに待った「どんちっちあじ」が入荷してきた。
 1尾約120グラム前後、20センチ弱のマアジで、鈍い銀色で触ると柔らかい。
 「どんちっちあじ」は島根県浜田市と島根県が協力して作り出したブランド。
 島根県西沖のマアジは日本屈指の品質を誇る。
 一般には「関あじ」などが有名だが、実はマアジを加工する業者(プロ)の間では「長崎県沖から島根県沖までのマアジ」が日本一だとされているのだ。
 日本一うまいマアジのとれる海域でとり、しかもていねいな処理をほどこし、特種な機械で脂ののりまで確かめて出荷する、これが「どんちっちあじ」なのだ。
 入荷してきた箱には「どんちっちラベル」が張ってあるけど、「ブランド化した理由」を説明した文字が小さすぎて誰も見ない。
 買い出し人たちには、ただの薄汚れて、鮮度の悪いマアジにしか思えないらしい。
 誰一人手を出さない。

 数尾買い求めて、『市場寿司 たか』に持ち込む。
 たかさん、見た目の悪いアジを手渡されて、少々困惑気味だ。
 袋の中をよく見ると、ワタと餌で汚れている。
「たかさん、“どんちっち”なんだ。よろしく」
「“どんちっち”ってなんだっけ」
 もうなんども教えているのに、ぜんぜん覚えられないらしい。
「島根県浜田西沖で巻き網によってとったアジを、脂肪ののり具合を機械で量って出荷したもの。この脂ののりを量る機械の開発って大変だったんだよ」
「でも見た目は平凡だよね。身が氷で凸凹してるし、見た目最悪。それに柔らかいね。なに、これ、本当に柔らかいよ」
 まな板で皮を引きながら、ぶつぶつ。
 味見に一切れ口に放り込んで「ほーーー、なんじゃこれは」。
 ボクにも一切れ「食べてみなよ」。
 口のなかに放り込んだ途端、口の中で溶けていく。それほどに脂がのっている。
「これ、アジじゃないよね。アジとはまったく違ってるよ」

 出来上がった握りはなかなかきれいだった。
 ネタの表面から数ミリほどに乳白色の脂の層がくっきり見える。
 これを口に入れた途端に表面の脂が溶け始める。
 すーっとネタの繊維が、ほどけるようにとろけて、すし飯と渾然となる。
 甘みは当然、甘みではなく、脂の味であり、ちゃんとマアジの旨味が後から感じられる。
 なんともいえずダイナミックな味わい。
 こんな小さなアジのどこから、この感動的な旨さが生まれてくるのか?

「やっぱりアジじゃないよね。とてもアジに思えない」
 たかさん、また刺身に切ったものを食べてみて、ぶつぶつ独り言をもらしている。

maaji090622.jpg

 今回の「どんちっちあじ」は仲卸の段階でキロ当たり500円でしかなかった。
 なんと1尾が60円から80円ほど。
 これは見た目の悪さと、荷の作りの悪さもあるだろうけど、「どんちっち」のブランドとしての意味合いが、思ったほど普及していないというところに原因があるのだろう。
 島根県の水産アドバイザーとしては、安くてうますぎるアジの握りを食べながら複雑な思いになる。

島根県浜田市「どんちっち」
http://www.city.hamada.shimane.jp/kurashi/nousui/suisan_don.html

寿司ネタ(made of)

マアジ
Japanese horse-mackerel, Japanese jack mackerel

マアジ
単に「アジ」はマアジだ。魚類学的にアジ科で「アジ」がつくものは「アジ」という人がいるが、一般的な話ではない。流通上も「アジ」とはマアジである。
北海道〜九州までの沿岸域、非常に浅いところから水深100mまでで群れを作る。
アジ科には多数の食・・・・
市場魚貝類図鑑で続きを読む⇒

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