寿司図鑑 雑記19

ゑんどう/つかみずし(大坂)

2008-08-20

大阪中央卸売に雑喉場の頃の風情は皆無だ。当然「ゑんどう」の外観も情緒に欠ける

 今回、まず大阪中央市場に来たのは魚貝類を見るためでもあったのであるが、「つかみずし」というのを食べるというのも大きな目的。
「つかみずし」というのは大阪市西区京町堀、江戸堀付近にあった雑魚場に明治40年(1909年)に誕生した独特の握り寿司。
 雑魚場というのは今で言うところの鮮魚を取り扱う市場のこと。この寿司、『ゑんどう』の今の先代(2005年現在)が考案した。
「つかみ」ということで温かい酢飯を、ふわりとつかみ取りネタをのせて客に出す。
 市場という慌ただしい場所もあって、炊きたてのごはんですぐ酢飯に仕立てたものを素早く客に出す工夫から生まれたのであろう。
 これが素早く気安いだけではなく「味わいも独自性が感じられうまいんだよ」と教えられたのはいつの頃だろう。確か20年以上も前。
 それからなんども機会をみて食べてみたいと思っていて、やっと今回たどり着いたのだ。

 中央卸売市場の大きな建物の脇に飲食店ばかり並ぶ一角がある。
 この一番市場寄りにあるのが『ゑんどう』である。初めて入る寿司屋というのは緊張するもので、「えいや!」と手動の引き戸を開ける。
卓上には、たれ(しょうゆ)、しょうが、楊枝。大阪ではしょうゆ皿を出さないで刷毛でしょうゆを塗る

 一瞬、立ち止まって店内を見回していると、「こっちどうぞ」と気さくな声で4人がけの席に誘ってくれる。
 店は狭く入って右にカウンターと、その奥に職人さんが握る場所。左に4人がけのテーブルが4つ。その奥から2番目なのだから数歩で座席につく。

 卓上にはうっすらと紅にそまった酢漬けのしょうが、たれ(これはなんというのか聞きそびれた)、楊枝。「このお店は創業何年くらいですか?」と聞くと、丸顔の飯田蝶子似のおばさんが「100年を超えます」。「注文はどうすればいいですか?」と重ねて聞くや、「一皿5個ずつ種類を変えて握りますよ」というので、まず一皿。
 やってきたのがカンパチ、メバチマグロ(中トロ)、白身であるがマダイかも知れないもの、ウニ、穴子が出てくる。
つかみずしは原則的に一皿5個ずつやってくる。これで2005年に1000円
同行していた娘にも同じものが来ていて、さっそく食べて、「たれをつけるとおいしいよ」と声をかけてくる。
 というのでつけるとこの甘すぎないたれがとても寿司に合う。
 まずは、カンパチから食べてみる。
 ふわりと握った酢飯はやや甘く酢は控えめ、人肌で温かい。
「これはいかん」と思ったのは、これなら際限なく食べてしまいそうに思えたから。
 早食い気味のこちらはいいとしても、いつも食べるのが遅いと注意されてばかりの娘の皿から、もう3個の寿司が消えている。
 これから「食い倒れ」を開始する初っぱなからこれでいいのだろうか?
「次、出しましょか? 好きなの言ってくれてもいいですよ」
 というのに娘はすかさず穴子だけの皿を注文する。「生まれてきていちばんおいしい穴子」だというのだ。
 こちらはそのままお任せでお願いする。
 待つ間もなく出てきたのがウナギ、アカガイ、生のホタテ、メバチのトロ、サヨリ。
 娘のところには穴子が5個。
 穴子だけは「つかむ」というのではなくバッテラのように長方形に近い。
 この穴子、煮たものに三つ葉が差し込まれ、酢飯の間には海苔も挟んでいて酢飯と合わせて4層構造になっている。
 アカガイもサヨリも鮮度がよく、この生の素材が酢飯によく合っている。
 面白かったのはウナギである。
 皮目の味わいは確かにウナギそのものであるが、酢飯がはんなりしているのに合わせるように焼き加減、たれが上品なのだ。

 今回食べた寿司は二人で20個、すなわり4皿であり、1皿1000円也で会計は4000円。
 ネタのよさや味のよさを鑑みると安い。
 たぶん「大阪に来ることがあって、ここに寄れない」と、寂しい思いにかられそうだ。

ゑんどう
http://www.endo-sushi.com/