寿司図鑑 雑記36

山口県山口市『なかたに』

2009-06-21

県庁所在地でもっとも人口の少ない都市が山口市だ。
県の中心とはとても思えず、むしろ山と清流のある、古い街並みを残す町といった方がしっくりくる。
ボクの趣味のひとつが、ただただ日常的な町を“無駄に歩く”というものなのだが、山口市ほど無駄歩きして楽しいところを知らない。
山口市を半日歩きした限りは、どこにも着飾った、作り込まれたわざとらしさ、いかがわしさがない。
まことにボク好みの町だ。
もちろん、市の中心部には長い長いアーケードがあり、県庁所在地なのでデパートだってある。
それにしても繁華街としてはみすぼらしいもので、若い女性が最新のモードを買い求めることも難しそうだし、ビックリしたのはどんな町にもありそうな怪しい一角が見つからない(探したわけではないが)。
だからいい。だから普段着の町のたたずまいが楽しめる。

その繁華街からほど遠からずに、白い暖簾だけが下がった『なかたに』がある。
地元のセトポン、ハタポンに教えてもらったすし屋なのだけど、外観からは家業がわからない。
教えてもらったから、おずおずと入っていけるといった、そんな店だ。
暖簾をくぐった途端に、これはいけると確信が持てた。
無駄な装飾がない、清潔だし、センスがいい。
ただし、サービスは鄙のもので、これもいい。

見渡しても品書きが見あたらない。
「注文はどのようにしたらいいんですか?」
「ええ、ウチはお好みでなければ、勝手に一人前握るだけなんですけど」
その勝手に一人前というのをお願いする。

漬け台に白いまな板皿、まずはマフグとヒラメが一度に置かれる。
握りは非常に小さい。
ネタを含めて25グラムから30グラムくらい。
すし飯は基本的には20グラムくらいだろう。
地方都市にしても、東京都内にしても、かなり小さめ。
マフグ、ヒラメ、サザエ、ハモ、アナゴ、マアジ、ウニ(ムラサキウニ)、マグロ、卵焼き。
これにマサバとヒラメの昆布締めを追加する。
さてすしネタは総てが出色のものだった。
問題はすし飯だが、やや柔らかく、酢が弱すぎるように思える。
総合的には素晴らしいものだが、唯一難点はすし飯といったところか。
しかし、これで合計2980円とは、安い。

山口県にこなければ食べられないネタがほとんどだった。
しかもサービスだって、なかなか程良いのだ。
ゆっくりお茶を飲みながら、夜の『なかたに』もいいだろうな、なんて思う。
 
なかたに 山口県山口市下竪小路76