寿司図鑑 雑記21

押しずしと、淡水魚について

2008-08-31
今回の取り上げるのは愛知県津島市末廣寿司の「新ばえずし」というもの。
 フナの稚魚を佃煮にして、これを材料に「箱ずし」に仕立ててある。
 2006年4月6日に、淡水魚・治水・食の歴史を研究している、うなたろう君に案内していただいた。
 この愛知県尾張地方の淡水魚を使ったすしを語る前に、ちょっと「すし」の歴史、地理的なことを述べておく。

 所謂「すし」と言われて思い浮かぶものは、最近では間違いなく「握りずし」ではないだろうか?
 関東で「すし食いに行こう」というと当然の如く、「握りずし」であるし、名古屋だって、大阪だって、きっと福岡だってそうだろう。
 東京の郷土料理のひとつであった「握りずし」が全国津々浦々まで勢力を広げてしまっている。
 今では国民食ともなっている「江戸前握りずし」(注1)というものの誕生は、「すし」のなかではもっとも遅く、大御所時代の文政期(19世紀の初め)である。
 そして単に“東京の郷土料理”であった「握りずし」が全国的に広まるきっかけは、関東大震災と、戦後食糧難で外食が禁止されたのをきっかけに誕生した委託加工(注2)によってだ。
(注1/「江戸前」という言葉は本来はウナギ屋のもの、すしに対して使われたのは新しい)
(注2/まだまだ委託加工にたずさわっていた寿司職人は現役なのだ。ときどき寿司職人のインタビュー形式で取り上げる)

 それまでは全国各地で「すし」というのはてんでんばらばら、現代よりも遙かに多種多様であった。
 地域地域で「すし」は独自であって、盛んに作られていたのだ。
 すしの歴史をたどると、発酵食品であった「なれずし」、その発酵を途中で切り上げ簡便化した「生なれ」、そして醸造酢をつかった「早ずし」と変遷を遂げる。
「箱ずし」は歴史的にはもっとも新しい「早ずし」にあたる。
 現在現役の「早ずし」を挙げていくと、巻きずし、いなりずし、押しずし、笹ずし、まぜずし、ちらしずし、棒ずしなんてのもある。
 今回の「新ばえずし」はすし飯を木の箱に敷き詰め、上に「新ばえ(フナの稚魚の佃煮)」をのせて、独特の押し器で押し固める。
 この「押す」というのが「生なれ」などの「漬ける」というのに繋がることはいうまでもない。
「箱ずし」の材料は野菜、海藻、卵、魚貝類など多様である。
 全国的に見られるものなので、江戸、安土桃山など、一定の時代に隆盛を極めたものだろう。
 どこかで盛んに作られるようになった「箱ずし」が、いつのまにか全国に広がり、地域地域の特産品をのせて、押しをかけられるようになったのだ。

 愛知県津島市から岐阜県にまたがる地域は木曾三川流域にあたり、淡水魚の豊富なところだ。
 淡水魚料理が盛んな地域は、北から秋田県八郎湖(旧八郎潟)、茨城県霞ヶ浦、千葉県利根川、愛知県尾張地方、岐阜県、滋賀県琵琶湖、岡山県児島湖、島根県中海・宍道湖。
 思いつくままに挙げていくとこんなところだろう。
 そこには淡水魚を使った「すし」が人知れず残っているはずだ。
 これら地域の淡水魚(特産品)を使った「すし」は今では総て貴重な食文化に違いない。

 食は画一化が進んでいる。
 画一化するということになんらいいことはない。
 その先にあるのは殺伐とした味気ない世界だろう。
 20世紀に生まれたボクにとって大きな課題というのが、この食の画一化の阻止である。
 そして「いかに尾張地方の食文化を残すことが出来るのか日夜思案に暮れている」、若いうなたろう君の応援をいたしたいと思う。

うなたろうの部屋
http://www.geocities.jp/morokounataro/2top.html
末廣寿司 愛知県津島市本町1丁目66