寿司図鑑 586貫目
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『市場寿司たか』特製の酢漬け茗荷の握り

みょうがのにぎり /
『市場寿司たか』特製の酢漬け茗荷の握り
握り

「こんなの作ったんですけど食べてみてください」
 たかさんが、中華『さくら』に茗荷(みょうが)の酢漬けのお裾分け。
「茗荷が安かったからガリ酢に漬けてみたんだ」

 これは面白い。
 女将さんにいれてもたった、うまいお茶をそこそこに『市場寿司 たか』にもどる。
 この二つの店、扉と扉が二メートルも離れていない。

 さすがに水曜日というのは暇らしい。
 カウンターの中のたかさん、なんだかぼんやり浮かばない顔をしている。
 さっきは珍しい生カラスガレイの縁側に大騒ぎしていたのだ。
「しかし暇だな。市場にゃ荷(魚貝類)もないしさ。早くも夏枯れか?」
「あのさ、さっき“さくら”さんにあげてた茗荷を握ってみてよ」
「ええ、あれ握るの」
「そう、茗荷の握りって京都なんかでやってたはずだよ」

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早稲田でござーい

 作るのはいたって簡単だった。
 時間にして20秒も経ってない。
 これがまた、きれいな握りだ。
 味も絶品。
 このところ炊飯釜の調子が悪い、シャリがおかしいと言っていたが、そんなことはない。
 すばらしい酢飯である。
 そこに程良い苦みと香りをもった茗荷の酢漬けがのって、さっぱりした味わいに。
 暑さでまいっていた頭がきりっとする。
 たかさんも試してみて、うまさに驚いている。
「茗荷食べると物忘れするっていうじゃない。どうも逆だね」
「いやいやバカな子でも早稲田大学の入れるってんじゃない」
「違うでしょ。バカ田大学でしょ」

 店の外を見ると、御前崎灯台出身のヒモマキバイさんが、鼻毛をヒラヒラさせながらこちらにやってくる。
 その姿、バカボンのパパそのものだ。
 鼻毛くらい切れよ!
「え、なに、何か言った?」
「言ってないよ」

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