寿司図鑑 656貫目
寿司図鑑1~856貫目は旧コンテンツからの移行データの為、小さい写真の記事が多くあります。

ロックロブスター/オーストラリアミナミイセエビ

ろっくろぶすたー /
ロックロブスター/オーストラリアミナミイセエビ
握り

ある日市場で近所の魚屋さんが「イセエビないかな?」と仲卸数軒を回っている。
 八王子総合卸売センター『高野水産』の前で、
「おーい、イセエビない?」
「イセエビはないけど、“ロブ”ならあるよ」
「“ろぶ”もイセエビの仲間だよね。いいかな。十本ばっかりくれ」
 聞いてみると米寿の祝いなんだという。
 八王子でも山間部に分け入ると、米寿の祝いを親戚一同が揃ってやるようだ。
 さて、年々、国内でもイセエビの漁獲量は減ってきており、それにつれて世界中からイセエビの仲間が輸入されるようになっている。
 なかでも多いのがオーストラリア産のロブスター(ロックロブスター)というやつ。
 市場では国産のイセエビと区別してロブスターと呼ぶ。
 食の国際化が進んで、古い伝統的行事にだってオーストラリア産でかまわないってことになる。
 ということで現状では結婚式や、正月のお飾りなんかも、国産のイセエビはほとんどなく、異国からきたロブスターばかりとなっている。

 遠くオーストラリアから活けで空輸されて、たぶん成田(港)にまでやってくる。
 これが関東に出回るのだけど、国産イセエビの半額ほどで、しかも大型なので人気がある。
 ボクだって大枚払って小振りのイセエビを買うよりも、ロブスターの大にする方がいいかな、なんて思う。

 自然保護、エネルギー問題、また戦争の原因が石油をめぐる世界情勢だとしたら、輸入ものを買い求めるのは決していいことではない。
 でも、国内のイセエビが減少したのは、無駄な港や、思慮に欠ける海岸線の破壊、汚染のためだ。
 この国の主導権を握っている人たちは「自然よりもお金」という考え方で、今でも元気はつらつに自然破壊に勤しんでいる。
 こんなことだから旧態依然としたバラマキ型政治家の代表的人物が首相になるのだ。

 閑話休題。
 さて、懐に優しいオーストラリアミナミイセエビなのだけど、生きている内に塩ゆでにする。
 刺身にだってならなくはないが「うまくはない」、これが寿司職人である渡辺隆之さんとボクの共通認識だ。
 だから茹でたてを半割にして、『市場寿司 たか』に駆け込む。
 甲殻類が好きで好きでたまらない、たかさんは、まずは味見。
「やっぱりイセエビなんだな。地球の反対側でとれたヤツだろ、だけどそんなに味変わらないね」

「ちょっと形が悪いけど」
 たかさん、なんどか握り直すが、意外に形がきまらない。
 それでも味は抜群にいい。
 エビはなんといってもアミノ酸からくる甘味が重要なのだけど、それがほどよく強く舌に感じられる。
 そしてあまり硬くないのがいい。
 噛むと繊維がほぐれてすし飯と馴染む。

「たかさん、握りの味も見て欲しいな」
「いやだね」
 エビ・カニを前にすると、常軌を失ってしまう。
 それほどに、エビ・カニに目がない。
 こまった五十路オヤジだ。

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