寿司図鑑 702貫目
寿司図鑑1~856貫目は旧コンテンツからの移行データの為、小さい写真の記事が多くあります。

津田蕪漬け/ツダカブ

つだかぶづけ /
津田蕪漬け/ツダカブ
握り

伝統野菜というものがある。
 東京都の亀戸大根、三重県の日野菜、石川県の加賀太胡瓜など古くからその地で作られてきたもので、科学的な品種改良などがいっさい行われていないもの。
 今や野菜の世界は、一世代交配種や人口的に作り出した品種が圧倒的に多くなっている。
 ボクの場合、けっしてこれら新世代の野菜が嫌いなわけでも、それが昔から作られた品種よりも劣っているとも思っていない。
 トマトなど多くの野菜で伝統的な品種を味・栄養価で超えるものが多々ある。
 また地球上の人口は限りなく増え続けていて、しかも温暖化などのために多くの作物が脅威にさらされている。
 当然、耐病性、害虫に襲われづらいなど、これからの時代品種改良は必至となるだろう。
 新世代の野菜を嫌うむきは世界情勢を鑑みない愚か者でしかない。
 だからボクはその辺に無数に存在する「有機野菜信奉者」が大嫌いでもある。

 でも昔ながらの野菜を守り育てなければならないという思いも人一倍強いのだ。
 そして島根の伝統野菜の話となる。
 有名なのが黒田せりと津田かぶ。
 なかでも旅人がお土産として持って帰るに便利なのが津田かぶの漬物だろう。
 津田かぶは松江周辺の伝統野菜で、アブラナ科であり種としてはツケナとなる。
 ツケナという一種類の植物から品種としてミズナ、ミブナ、野沢菜、蕪類などができて、そこには同種と思えない形態の変化がある。
 これはその地、その地、地方地方で変化したもので、だからこそ画一化して没個性的な現代の風潮から地域文化を守る砦となってもいるのだ。
 出雲、松江市などに来たらぜひ津田かぶをお土産にしてほしい。
 漬物なのだから、旅から帰って、後は切るだけで済む。
 その豊満なうまさに感動するはずだ。
 こうやって旅の記憶を呼び覚まさしてみてはいかがだろう。

 今回のは松江市内でも味がよい漬物を作ると評判の「野津商店(グロッサリー のつ」のもの。
 津田かぶはぬか漬けが多いとの話もあるが、今回は浅く塩漬けにしたもの。

 伝統野菜が品種として残るためにはいろんな要素がある。
 例えば辛みだとか、独特の風味があるとか。
 津田かぶの場合、漬物にして囓ったら独特の風味・香りがあるのだけど、ここには微かに苦み渋みが伴う。
 苦みは甘味を相乗効果して強く感じさせる。
 津田かぶの葉には適度な青臭み、茎には芳醇で丸みのある甘味があるのだ。

 これを握り、巻物にするというと奇異に感じるだろうか?
 東京都でもまだまだ土俗の残る多摩地区では、奈良漬けの巻物はその昔から人気があった。
 『市場寿司 たか』でも奈良漬け、山形の青菜(せいさい)、ナスの丸漬けなどをときどき握り、巻く。
 漬物をすしに使う、当たり前でしょ、という面もちがある。
 だからたかさんに津田かぶを渡すと、茎を一口囓ってから、おもむろに握りに、葉の方は巻物にしてしまった。
 これがなんともうまいのである。

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 甘いのか渋いのか、辛いのかわからないけど芳醇無比で旨味が複雑で、ボリューミーな味わいがあって、その下にすし飯のきりりとして加うるに糖質の甘味があるのだけど、これがなんとも万華鏡のような目映いばかりの味わいとなっている。
 「官能的だ」というのは大げさかも知れない。
 そんな個人的な繭のなかでぬくぬくとした喜びに浸っていたら現実に引き戻されるような、そんな端的な美味が目の前にきた。
 葉と茎両方を使った細巻である。
「赤い(赤紫)の部分を出来れば生かしたかったんだけどね」
 確かに彩りに欠ける巻物だ、だけどこちらの方が完成度が高い。

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 お隣の『さくら』夫婦にも食べてもらって大好評。
 たかさんが「今度何時島根に行くの」と聞いてくる。
「2月かな」
 その頃にも津田かぶの漬物があればいいのだけど。

グロッサリー のつ(野津商店) 島根県松江市芋町1の21

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