寿司図鑑 625貫目
寿司図鑑1~856貫目は旧コンテンツからの移行データの為、小さい写真の記事が多くあります。

新子

しんこ / コノシロ
新子
握り

 七月も中旬になるとコノシロの稚魚、「新子」が入荷してくる。
 重さ4、5グラムほどで三匹でやっと1かんの握りになる。
 八月になって、この「新子」と「こはだ」の中間的な大きさになって、「市場寿司 たか」では初めて、この面倒な仕込みにかかる。

 さて「新子」の話をすると話が長くなる。
 簡単に説明すると、その昔、「新子」の出始めは秋だった。
 なぜならコノシロなんて魚は雑魚も雑魚(うまいまずいは抜きにして)、江戸前ずしにでも使わない限り、稚魚である「新子」なんて捨てられるだけだった。
 当然、高度成長期前後まで、珍しくも「新子」を珍重する東京の街に入荷してくるのは江戸前でとれたものだったのだ。
 東京湾はコノシロの北限(漁業の)にあたり、産卵期も遅く、「新子」のとれる時期も遅かった。
 それが交通の便がよくなり、三河湾、伊勢湾、大阪湾と産地は西へ西へと延びる。
 九州は有明海、不知火海、鹿児島まで延びていく。
 しかも温暖化のためなのか産卵期はより早くなってしまって、「新子」の出始めは七月となってしまったのだ。
 また「新子」の大きさの定義は難しい。
 握りネタとして使うとき、「新子」の出始めは開いて酢締めしたものを三枚重ねて一つの握りにしかならない。
 これが二枚になり、一枚になっても呼び名は「新子」である。
 この時点でネタは寿司飯を覆い尽くさず、裾から見える。
 一尾一かんで寿司飯を覆い尽くすようになると「こはだ」なのだろうか?
 市場で「新子」として売られるサイズはまことに曖昧。
 最近徐々に「新子」が大きくなっているように思える。
 と言うことで、今回の『市場寿司 たか』の握りは「新子」とする。

「たかさん、産地はどこなの」
「知らないよ、やまぎし(八王子綜合卸売協同組合)で1800円(キロ当たり)もしたよ」
「これじゃ手間を考えると高くなるね」
「うちじゃ150円だけどね」

 昨年の「初新子」は七月終わり頃だった。
 二枚づけの「新子」は旨味が薄く、もの足りなかった。
 今回は、旨味もつよく、舌に引っかかるように脂の甘味を感じる。
 口の中で咀嚼するほどもなくサラリとほどけるような柔らかさがいい。
 たかさんの「新子」に合わせた寿司飯の握り加減も絶妙だ。

 気温30度代半ばの猛暑が続いている。
 その暑い暑い日の「新子」の握りは口の中でひんやりする。

寿司ネタ(made of)

コノシロ
Dotted gizzard shad

コノシロ
日本各地の浅い内湾、汽水域に群れを作る。古代からの食用魚だ。
本種の若魚「こはだ」は東京では江戸時代以来、江戸前を代表する「光りもの」である。本来は江戸時代、握りずしの種を色合いと、酢でしめるという仕事をほどこす魚という意味合いから生まれた・・・・
市場魚貝類図鑑で続きを読む⇒

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